殷周の青銅器こそ中華文明の証と思っていました。中原から遠く離れた四川で全く別の青銅器文明が忽然と現れた事だけで十分な驚異ですが、見た事もないこの形を見て腰を抜かしそうになっても不思議はありません。横幅が77センチと言えば大体の大きさがお分かりでしょうか。1986年に出土した三星堆(さんせいたい)の青銅器群は何度か来ていて私が見るのは3度目ぐらいでしょうか。宣伝の仕方に依っては展覧会の’目玉’にだってなりうるインパクトだと思います。けれど、昨今の事情で会場はガラガラです。こんなに近くからゆっくり見る事が出来たのは初めてです。今年始めの清明上河図巻の混雑が嘘のようです。
何時だったかの中国国宝展で来た編鐘はその巨大なスケールにびっくりしました。梁から紐で吊るしてありました。今回の編鐘はそこまで大きくはありませんが木製の枠に吊るされたまま出土した点で、吊るし方が判って興味深い物がありました。他にも巨大さで人を驚かすというより精緻な模様を間近で見られるなどで青銅器好きには嬉しい出品が多かったと思います。
唐の美人といえば樹下美人図で日本人にもおなじみです。今の日本人にああした美意識を知る事は出来ても、恋心を抱くのはちょっと難しい。左の奴はそうした例に当たると思います。右の胡服女性桶には惹かれました。写真では判り難いとは思いますが、展示では照明の違いでしょうか、興福寺八部衆阿修羅の顔立ちにも似た美しさがあると感じました。
小さな青磁などは皆台湾の故宮に行ってしまったのかと思っていましたが、広い中国にはまだまだ名品が残っている事が解りました。陶磁器にも素敵な出品が沢山ありました。
これだけの物がこんなにゆっくり見られる機会は中々無いと思います。12月24日までの中国王朝の至宝展をお勧めします。
もう来ないなんて可能性だってあるかも知れません。
何より空いていて、ゆっくり見る事が出来た点も含めれば、今年の展覧会ではベストかな。すっかりいい気分になったのでついでにメトロポリタン美術館展ものぞいたら、全く心に入って来る物がありません。特に油絵がいけません。時代を問わず全てが脂ぎった毛唐の描いた趣味の悪いガラクタにしか見えません。普段であれば好きだったり興味の対象になる作品だってあったのに、まるで心が受け付けません。東アジア脳になっていたのでしょうか。