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オイロダイン
ナチスのニュルンベルグ党大会会場も、40万人収容のドイツスタジアムもシュペーアによる会場が有名です。でもそれだけではヒトラーがいくら拳を振り回しても、声は百人にも届かないでしょう。
拡声器、マイクとアンプとスピーカーが優れていなければナチスドイツも無かったかも知れない。
な〜んてね。
音響が国家の威信にどれだけ関わっていたのかという話をしたかったのですが、話が少し大げさになりました。
アメリカ映画の音響を支えたのがWEやRCAであれば、ドイツ映画の音響と言えばクラングフィルム。
ドイツでもシーメンスとAEGが共同出資した映画音響機器部門クラングフィルムが1928年にはオイロッパ(EUROPA)というスピーカーを作っています。その後アルテックのAシリーズと同じように劇場の規模に応じて色々なシステムが作られました。
数々の巨大なシステムもある中で、1938年頃には38センチコーンウーハーとホーンによる2ウェイの最小単位、オイロダインが作られます。(アルテックで言えばA7に当たる様な気がします)
強力な磁石が必要だった為に、当初フィールドコイルだったスピーカーも(要するに電磁石です。アンプ以外にも大きな電源が必要でした。)戦後強力なアルニコ磁石が手に入るようになって、1950年頃パーマネント化されます。1965年ごろまでクラングフィルムのブランドで売られました。日本でも売られるようになったのは1970年代に入って、シーメンスブランドになってからです。
私のオイロダインは、昔、渋谷ロフトにあったウェスタンサウンドインクで買いました。お店の土井さんによれば、1961年製で、当時ある新興宗教の教祖が世界で最高のステレオを用意しろと言い出してドイツから運ばれた物だそうです。
F2aPPのパワーアンプが3台、それを自由に組み合わせ出来る切り替え装置とプリアンプ、身の丈程の縦型ラックに納められたアンプシステムが組み合わせてありました。恐ろしく魅力的でしたが私には手も届きませんスピーカーだけ買いました。アンプシステムの方は横須賀の有名なお医者様の所で彼のオイロダインを鳴らしているようです。
何故、お金もないのにオイロダインを買ったりしたのか。当時百貨店の外商のお手伝いで少し大きな仕事が取れそうだったせいです。気が大きくなっていました。そこに百貨店の店員扱いの割引も考えようなどと言われてとんでもない勘違いをしてしまいました。その後お施主様の急病で話がすっ飛んだ後は本当に大変でした。
骨格のしっかりした、堂々、朗々、と言えば褒め言葉ですが、一方でゴリゴリの一本調子で、ワルツが行進曲になってしまうような所がありました。暫くしてネットワークからスピーカーユニットへの配線を当時出だしの6Nで繋いだ所スーっと静かな音になりました。コードだけでこれだけ変わるのだったら、あのネットワークを外せばどんな音を出すのだろう。
何年も考えていたのですが、安いチャンネルディバイダーを見つけて初めて手を着けました。
あのゴリゴリや大迫力は全てネットワークの歪みだったみたいです。刺激的な音を出さない、友人によればシルキーな音になりました。 音の質は格段に上がったとは思います。非常に反応の早い、歪みの少ない最新型のスピーカーのようです。けれど失った物も沢山ありました。 何故こんなに大きくて間抜けな年代物を使っているかと言えば、今時の最新型にはない音の芯と言うのでしょうか、ガッツというのでしょうか、何かゴリっとした物が欲しかったせいです。 サックスの出だしのブオっという音は古いホーン型のスピーカーでなければ得られないと思っていたのに、あれは単なる歪みだったのでしょうか。 ベースラインは格段にはっきりしました。外に広がる低音の余韻もずっとマシになりました。 けどな〜、ラッパがな〜、これじゃまるでドームツイーターだ。 何十年も私の機械ではSOMETHIN'ELSEが楽しく聞けた覚えがありませんでした。この半年程やっと楽しく聞けるようになったと思ったのに。マイルスのペットの後、キャノンボールアダレイが入って来る所が楽しみだったのに。
PS
ここに書いた事はあちこちからの読みかじりです。私のオイロダインが本当に1961年製だとすれば、クラングフィルムブランドのはずですが、シーメンスとしか書いてありません。
かき集めた読みかじりのどこかにか、61年製という情報かどちらかに間違いがあるのでしょう。
パーマネントのアルニコよりはフィールド型が、円弧状に並べる為に鉄のフレームの後ろが狭い物よりは真四角なフレームが、グラスエポキシのホーンよりはアルミダイキャストが、
日本の好き者の中では古い物程偉いという不変の思い込みがあります。
そういう意味では、オイロダインの中ではあまり偉い方ではなさそうです。
でも、25センチ3発の奴をみると、俺の方が偉いななどと思ってしまう所が馬鹿だなと自分でも思います。
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