雑誌で平面を見ても、良く分からない。実物を目の前にしても、曖昧で多面的で、やはり良く分からない。この世に二つとない不思議な物なのに、テンションが低くて町並みの中で声高に何かを訴えることもない。中に入って、平面図と断面図を何度か見比べる事で、とぐろを巻いた巨大な一室空間が少し分かってくる。ただ中に入って見ると、明るく、穏やかで、日常的な室内の居心地の良さに、難しい建築の話をする気が失せた。捕らえ所のないことは、実物も雑誌の写真も同じだけれど、現実には坂本先生と奥様の膨大なコレクションで埋め尽くされているせいで随分雰囲気が違う。
イームズの家は工業既製品を使ってといった話もあるけれど、実際にあの家を魅力的に見せているのは建物ではなくて、おもちゃやがらくたのコレクションと、イームズ夫妻の暮らし方自体だと思う。
house SAも現実の問題として、あのコレクションを、どうするかを、考えずに、あの家ができたとは思えない。あのデプスの大きなスタッドも棚を作るのに好都合という側面もあるだろう。
正直に言えば、house SAよりも先生のコレクションに圧倒された。ブリキのおもちゃから、アフリカの民具、中国朝鮮の器、古今東西の布切れ、中でも黒陶のたかつきと、三本足の円筒は私の好みだ。すご〜くいい。欲しいなぁ。たかつきの等高線状の同心円とそれを繋ぐ四角い穴は他で見たことがなかった。先日、上野の東洋館で同じ模様を見つけた。
PS
大学のころ、まだ国立にはハウスが沢山あって、先生はそういった一棟を事務所にしていらした。コンピューターもなかった当時、部屋の中には、製図板以外のものもなかったけれど、良い椅子がいくつか置いてあって良いなぁと思った。
先生の椅子や玩具、沢山のコレクションや立ち振舞い、随分色々なものを拝見して来たけれど、人とは違うところを覗いたりしている内に、肝心の建築の難しい話に関して聞き逃してしまった所が大きい。
PS
写真で見たカルダーのアトリエやボーボワールの部屋も素敵だった。住宅は所詮、素敵な暮らしや生活、創作活動の容器に過ぎない。随分と複雑な操作の結果に思えるhouseSAも、それを上回る素敵な暮らしを内包していることが何より素晴らしい。
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