絵巻物って傑作もあるけれど、全てが素晴らしい訳でもありません。構図には困難を伴い、お話の説明ばかりに手を取られ一枚の絵とみれば完成度が落ちるのが道理とも思えます。正直に言えば退屈だなと思った事もありました。そんな絵巻物の中でこれは見てみたいと思っていたのが伴大納言絵巻とボストンの平治物語絵巻です。教科書の小さな写真の中からも何か感じる物がありました。
伴大納言の実物をやっと見る事ができました。その筆使いの精細なこと、驚くほど細い筆跡で人の表情から着物の柄までが丁寧に書き込まれています。同時に跳ねる馬や、走る人が驚くほど動的に、勢いのある筆跡で描かれています。今まで見てきた絵巻物とはブラウン管と4Kテレビ程の違いがあります。面相筆で描かれた線の精細は他に例を見ないと書きかけて一人思い出しました。絵画界最大のトリックスターと言えば少し好意的でしょうか、最大の色物ダリはそのいかがわしさとは裏腹に正統的絵画テクのチャンピオンでもあります。少なくとも60〜70センチの大きさかと思っていた絵が10センチ四方程の大きさで驚いた事があります。彼の面相筆の超細密を思い出しました。(もっとも面相筆で輪郭を示す日本画と輪郭の無い色面を極細の筆で書き起こすダリとでは使い方が違います)筆で描かれた人々一人一人の生き生きとした事、清涼殿で藤原良房が対面する清和天皇だけがえらく下手くそに見えるのが不思議です。絵巻物に良くある構図ですから、お決まりあるいはお約束の通りと言う事でしょうか。
実物でしか解らない線があるのと同時に、実物では解らない、印刷物で初めて気がついた線もありました。
面白い経験でした。出光美術館
行く途中の地下鉄でもらったフリーペーパーが気になりました。津上みゆき「時の景、つなぐとき」ポーラミュージアムアネックスと書いてあります。銀座ならついでに覗いて見ましょう。
抽象って本人の意図とは別にある邂逅や衝突が偶然に起きる可能性もあって小さな写真に感じた何かを実物で確かめたいと思いました。
偶然ではありませんでした。名前も来歴も一切知らない人ですがすっかり感心してしまいました。丹念な構成と意図的でなお抑制の効いた勢い、筆使いと色感の絶妙。彩度も高くて勢いもありますが、軽薄なお調子者でもありません。絵だけではたまたま一枚の偶然もあるかと思いましたが、スケッチを見て確信しました、凄く上手い。山程ある美大の油絵科から、万に一人でも彼女の様な才能が現れれば無駄でないと思いました。
ポーラミュージアムアネックスのHPでは良くある安っぽい抽象に見えなくもありません。下に載せた絵はそうではないと思いました。
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