坂本先生の’代田の町家’が大好きで、外からは何度か見ていますが、中を見た事は有りません。雑誌の記事では写真や図面を何度も見ていてある程度の見当は付いている積もりでした。
独特の軒の低さや、それを成り立たせる天井の低さも承知している積もりでした。向こうにベンチューリが透けて見える気もしました。一見普通に見える事、目立たない事が信条だと言うのですから、一体どれだけの人に分かる物だろうかとも思いました。
単純な四角い主室(居間)は全てを白く塗る事で具体的な材料の質感を消してニュートラルな物にしています。床の大理石のわずかな透明感の所為で大橋さんの家具が宙に浮いた様にも感じられます。
中庭やヒンプン風衝立、ファサードに比べて中心の主室について語られる事が特別に多かったとは思えません。雑誌の写真では白くて真四角な語るべき点のない空虚な中心、整理の行き届いた単にシンプルな部屋に思えました。と,ここまでが今までの感想でした。
1976年の竣工ですから37年経った事になります。土地ごと売りに出されて、買い手が付けば壊されるかも知れないのだそうです。ゼミや研究室のOBに見学の機会を設けて頂きました。
長い間、憧れていた’代田の町家’をようやく見る事が出来ました。水無瀬の町家でも感じた微妙な寸法やプロポーションに対するこだわりは更に密度が高くなっています。具体的なスケールを想起させる人や物が写っていない竣工時の写真は宙に浮いた様な抽象性を感じますが、37年の時間の所為で、縦嵌めの板の目地に隙が出来たり、あちこちの汚れもあって夫々の材料の質感が強くなっています。写真では極くシンプルに見えた主室ですが、高さ方向に影響を与える要素がとても多くて、夫々の要素を手間を掛けて整理して、折り合いを付けた非常に濃密な空間に感じました。
西側の窓の高さとキャットウォーク、隣の和室の床との関係、更にその下にソファを造り込んで無理のない寸法を確保する事、ソファとサイドボードの高さを揃える事、使い勝手に無理があったり、見た目に煩雑な物を感じる事は有りません。けれど複雑多岐に渡る寸法の調整が想像出来るとその過程がトゥーマッチにも感じます。セクションを考えるのが何より好きだとご本人が言っている訳ですから、当然かも知れませんが、あまりに多くの要素を吟味、操作して整理する、一切の不整合を許さない。ここまでやるのかと思わせる濃い空間でした。バロックの教会とか倉俣さんの店舗の内幾つかに入った時と同じ様な圧力を感じました。ちょっと変なたとえですね。
houseSAが複雑な操作の上に成り立っているのに、中に入ってしまうとそうした事を感じさせないおおらかさが有るのとは対照的です。代田の町家を見て、初めてhouseSAの意味の内に分かる部分があった気がします。勘違いかも知れません。
Good News
Good News その後