三極管シングルの敏感でダイレクトな反応は他に例を見ない美点ですが、爪先立ちをしている様な危うさと背中合わせです。その点で多極管のプッシュプルには大出力と安定性という美点がありますが、敏感な反応で三極管シングルには敵いません。それぞれに美点を最大限に引き出して魅力的な成功例があります。どちらが優れているかは状況次第だと思います。拘束時間が少ないけれどお金も少ない仕事と、拘束時間が長い替わりに良いお金を貰える仕事。拘束時間が少なくても沢山お金が貰える仕事があれば一番です。
一つは三極管のプッシュプル、もう一つは大型三極管のシングルが気になる所でした。昔211PPのブースターアンプを使っていた事があります。大きなポテンシャルには気付きながら使い切れなくて手放しました。以来211を手元でもう一度試してみたいと思って居ました。ただ211のシングルでもステレオにするととんでもない大きさと重さになってしまいます。211シングルのモノラルアンプ。簡単に持ち運びの出来る大きさがあったらなと考えるのは無理の無い所だと思います。
それで見つけたのがNS -211FM、大きさやレイアウトはほぼ理想的です。両脇の木目パネルとトランスの上の金色のエンブレムは我慢する事にしました。昔 MCトランスを色々試した時からファインメットのトランスには好感を持って居ました。初段は回路図によれば三極管一段になって居ますが、MT型双三極管12AX7が2本有ります。V1,V2 をパラ接続と書いてあります。SRPPが並列とか四つ並列とか?回路図に書いて無いのは内緒という事でしょうか、よく分かりませんが、不思議な初段にドライバー段はEL34の三極管接続で最後に211、全て無帰還だそうです。
まず大出力でDACとプリの間に入れて居たMC用の昇圧トランスが要らなくなりました。更にパワーアンプのボリュームも絞らないといけません。音が大きくなっただけでなく、コントラバスが太くてボリュームがあります。にも拘らず他の低音との区別が容易です。分離が良いと音が細くなる事が多いと思って居ました。分離が良くてボリュームも膨らむのはあまり経験が有りません。ただバロックを聴いているとチェンバロのぺシャンぺシャンとした音が聞こえなくなりました。金粉をまぶした様な煌めきが消えました。
まだ分からない事だらけです。もう少し聴いてみたいと思っています。